以下の内容は当院院長が岐阜放送ラジオで放送されている「ラジオホームドクター」に出演した際にお話しした内容に最近のトピックスや治療法などを追加して記載されております。
滲出性中耳炎は、急性中耳炎から引き続いて起こったり、かぜや副鼻腔炎などのどや鼻の炎症があると起こりやすい病気です。中耳というのは鼓膜の奥にある空洞のことですが、この中耳と鼻の奥は耳管という管でつながっています。みなさん高い山に登ったときなどに耳がポンとふさがった感じになり、それがつばを飲み込むと治る、というようなことを経験したことがあるかと思いますが、これはこの耳管という管がつばを飲むことで一時的に開いた状態になるためにみられる現象です。ところが急性中耳炎や風邪、あるいは副鼻腔炎などが長引くと、この耳管の粘膜まで炎症を起こして腫れしまい、耳管が詰まってしまいます。すると空洞である中耳内の換気、いわゆる空気の入れ換えが行われなくなってしまい粘膜が障害されてしまいます。するとその障害された粘膜から液体がしみ出てくるようになってしまいます。この液体が中耳内にたまった状態が滲出性中耳炎です。
滲出性中耳炎も急性中耳炎と同様でやはり、子供さんに多い病気です。というのは、子供さんはどうしても、かぜや、副鼻腔炎にかかりやすいということが原因のひとつであります。それと、鼻の奥の先ほどお話しした耳管という管のちょうど入り口付近に、アデノイドとよばれる扁桃組織があるのですが、このアデノイドは6歳ごろに最も大きくなります。このため耳管の入り口を塞いでしまうことがあり、これも原因の一つと考えられています。又、高齢者では、この耳管という管の機能自体が衰えてくるため、比較的ご高齢の方も滲出性中耳炎になりやすい傾向にあります。
《症 状》
次に症状についてですが、滲出性中耳炎では、「耳がポンと塞がった感じ」や「聞こえが悪い」と言った症状が起こります。一般に痛みはあまりみられません。ただし、子供さんの場合には、自分で難聴を訴えることはめったにありません。多くの場合には、「呼びかけても返事をしない」とか、「テレビを近くで見たり、テレビの音を大きくする」などといったことで、周囲の人が気付くことがほとんどです。又、難聴の程度が軽いと、周囲に人も気付かないため、健康診断などで偶然見つかることもあります。
滲出性中耳炎が疑われる場合、耳鼻咽喉科では、まず、鼓膜を観察します。すると、鼓膜の内側に液体がたまっているのが透けてみえたり、鼓膜がやや凹んでみえたりします。また、鼓膜の動きを見る、「ティンパノメトリー」という検査がおこなわれることもあります。又、大人の方で、滲出性中耳炎を繰り返す場合、稀に上咽頭というのどの奥などに腫瘍ができている事が原因で反復している場合があります。そのため、耳だけでなくファーバースコープなどでのどの奥などを診察する事もあります。
《治 療》
治療としては、急性中耳炎の場合と同様にやはり、耳の処置の他に、原因となる鼻やのどの治療が大切です。又、鼻の方から先程お話しした耳管に空気を通してやる「耳管通気法」を行って、滲出液が耳管から流れ出るように促す治療などが行われます。それでも滲出性中耳炎が続く場合や、程度や症状が強い場合は、鼓膜を少し切開して溜まっている滲出液を抜き取る治療が行われます。鼓膜を切ると聞くと痛そうですが、現在では、鼓膜に麻酔をすることができるため、ほぼ無痛で行うことができます。場合によっては、何度も鼓膜切開をしなければいけないこともありますが、鼓膜は皮膚と同じ組織でできているため、ほとんどの場合、切開しても数日で切開部は塞がってしまうためあまり心配ありません。
これらの治療を行っても、滲出性中耳炎が続く場合や、反復する場合には、「チューブ留置療法」を行います。これは、先程お話ししたように、鼓膜を切開するだけでは一般に数日で切開した穴は塞がってしまうため、そこにチューブを入れておくことで、穴の空いた状態を持続させ、滲出液を自然に排出させてやると同時に、中耳に空気をいれてやることで、障害された中耳粘膜の状態を改善させてやるというものです。一般にチューブを入れておく期間は、さまざまで、1〜2ヶ月のこともあれば、年単位の長期間入れておくこともあります。又、基本的にチューブは一度いれたら交換の必要はなく、なるべく耳に水がはいらないように注意して頂かなくてはなりませんが、それ以外は日常生活にも支障ありません。チューブを入れる事は、大人の方や、ある程度の年齢のお子さんであれば、外来で簡単に行うことができます。
滲出性中耳炎は、自然に治っていくこともある病気です。とはいえ、治りきらずに放っておくと「癒着性中耳炎」とか「真珠腫性中耳炎」とかいった慢性中耳炎に移行することがありますから、やはりその都度しっかり治しておくことが大切です。又、お年寄りの方などで、最近耳の聞こえが遠くなったなどという場合、ついつい年のせいで仕方がないとあきらめていらっしゃる場合がありますが、滲出性中耳炎になっていて余計に聞こえにくくなっているといった場合もありますので、一度診察を受けられると良いと思います。